第弐拾五話 捜索「ランディエフさんが、いないだって?」 翌日の朝、ランディエフがどこにもいないという事で、ヴァン達は騒然としていた。 「ええ、用意したベッドが使われた形跡が無いし…古都中の人にも聞き込みをしたけれど何一つ情報が無いわ…」 ロレッタが困惑した表情で答える。 彼女自身も、仲間が急に行方不明になったことに焦りを感じているようだ。 「くそ…なんで…」 可能性は二つある。 一つは敵によって拉致、または始末された。そしてもうひとつは… 「…ヴァン、『裏切り』ってことも考えられるんじゃねぇか?」 今ヴァンが頭の中で考えた可能性のもう一つを、ラムサスが告げる。 その可能性に反射的に反論するヴァン。 「あんな率直で真面目な人が『裏切り』なんて、あるわけないだろう!」 「…じゃあ、なんなんだよ?いなくなった理由」 考え込むヴァンを、軽く煽るラムサス。 「…考えられる可能性は、ちゃんと受け止めた方がいいぜ?裏切ってもいないんなら『ポータルストーン』で連絡が取れるはずだし、応答もしないってことは、そういう可能性だってありえるってことだ」 『ポータルストーン』とは、一般的に知られている『場所記憶』や『魔法の絨毯』といった魔力は無いものの、音声を送ることが可能であり、通信機のような役割を果たしている。 ネビス達の持っている指輪はこれの発展型ともいえる。 ふと、ラムサスの『ポータルストーン』がブルブルと震え始めた。 誰かから通信が入ると、ブルブルと震えだすしくみになっている。 「あぁ、俺だが………わかった、今すぐいく」 ラムサスは通信を切ると、ヴァンとロレッタに言った。 「ファントムの部隊が、ここから北のバヘル台地で何か見つけたらしい。行くか?」 「…あぁ!」 「…全く、ここで何があったというんだ…?」 ファントムは通信を切ると、目の前の惨状に改めて絶句した。 2種類の色をした血がいたるところに散乱し、草叢を濡らしている。しかもまだ新しい。 人間のものと思われる血と、おそらくはモンスターと思われるドス黒い血。 ファントムは先ほど、科学班にこの2種類の血を鑑識にまわすように命じた。 そのとき、後ろからラムサスとヴァン、ロレッタが到着しファントムに声をかけた。 「おいファントム、見つかったものって…ってうわ!」 ラムサスもさすがに目の前の状況に驚いた。 「これは…一体?」 ヴァンもきょとんとした表情でファントムにたずねた。 「…よくわからぬが、壮絶な戦闘があったことだけは理解できる…」 ふと横から、『フルプレートアーマー』を着た剣士が駆けよりファントムに報告を告げた。 「ファントム隊長!あの2種類の血を鑑識してみたところ…黒い方は特定できませんでしたが、もう片方の血液は、現在行方不明のランディエフ・リビーラのものと判明いたしました!」 その言葉に、その場にいた全員が絶句する。 「やはりか…」 最悪な予想をしていたヴァンも、嗚咽をこぼす。 「そんな…」 ロレッタがその兵士にかけより、言い放つ。 「彼の…ランディエフは見つかっているの!?」 「いえ、それはまだ発見されてはおりませんが…」 そのとき、近くの草むらを捜索していた兵士が、「うわぁ!」と驚きの声をあげた。 その声に、すぐにファントムが反応する。 「どうした?何かあったのか?」 「う…腕が…」 ―腕!?― ファントム達がその兵士のもとへ駆け寄り、それを見た。 指先に飛び出た鋭い爪。腕の甲の部分に甲冑のように張り巡らされた紅色の鱗。 それらが示すものは、この腕の持ち主が人間ではないということを示していた。 「…これはまた、面白いものが見つかったな…」 ファントムが苦笑しながらその腕を拾い上た。 「…爪先に血がついている…おそらくランディエフのものだろう…」 ファントムは周りにいた兵士達に叫ぶ。 「この腕は私が持ち帰って調査してみる。お前達はこのまま捜索を続けろ。」 「はっ!」という威勢のいい返事が返ってきたところを確認すると、今度はヴァン達に向き直り、こう告げた。 「お前達はもう戻った方がいい。気分が悪くなるだろう。」 帰った方がいい、という意味の言葉にヴァンは講義した。 「いや、俺もここで一緒に…」 「…お前は一人じゃないだろう?彼女の事も心配してやれ。苦しそうだぞ?」 ヴァンがロレッタの方を見ると、確かに気持ち悪そうに背をかがめている。 「…彼女のためにも、戻るんだ。いいな?」 「…わかった」 ヴァンは素直に頷くと、ロレッタと一緒に『帰還の巻物』で古都へ帰還していった。 ジャンル別一覧
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